この事例の依頼主
女性
御依頼者は、7年前に亡くなった親に多額の借金があることを全く知りませんでした。その親には、税金や金融機関に対する借金が2000万円以上ありました。このような借金は、アパート経営をするために金融機関から借り入れを行った御依頼者の兄弟にその原因がありました。その親は、自らの土地をアパートに提供するとともに、アパート建築の為の金融機関からの借り入れについて、連帯保証人になっていました。このアパート建築の借り入れや、そのローンの返済、固定資産税などの支払いについては、御依頼者の兄弟が全て行っていました。アパート経営が順調であれば、前述したようなローンの支払いや、税金の支払いも問題なく行われていたと思いますが、なかなか想定していたような入居者を確保できず、ローンの返済は徐々に滞っていくようになりました。そのような中で、被相続人である親が死亡されました。それから数年を経過し、前述したローンの返済は、とても返済できるような状況でなくなり、不動産の処分をせざるを得ない状況に追い込まれました。このような状況を御依頼者が、御兄弟から聞いたのは、被相続人が死亡され、既に7年近く経ってからになります。この時点で初めて御依頼者は、自分の親にも多額の負債があったことを知るに至りました。それでこの親の負債を自分たちは相続をしているのではないか、相続をした以上、自分も支払いをしなければならないのかと悩まれて相談に来られました。
相続放棄という言葉自身は、知られていることが多いと思いますが、相続放棄をするには、どうしたら良いのか、その方法をご存知の方は少ないと思います。相続放棄は、相続の開始があったことを知ったときから(簡単に言えば、例えば親の死亡を知ったときからになります。そのため親が死亡した時ではなく、あくまでそのことを知った時からになります)、3カ月以内に家庭裁判所に手続きを行う必要があります。単に自分は、相続をしないと他の相続人に宣言するだけではこの相続放棄をしたことにはなりません。ここからすると、本件では、被相続人が死亡してから、既に7年近く経過しており、また当然御依頼者は、親が死亡されたことも知っていますから、前述した原則からすれば、相続放棄ができないことになります。しかしこのように死亡から長期間が経過した場合であっても、被相続人にこのような多額の借金があったことを全く知らなかったり、また知らなくてもやむを得ないような事情が認められる場合には、例外的に裁判所が相続放棄を認めてくれる場合があります。本件においても、このような例外的な事情を裁判所が考慮をしてくれて、相続放棄を認めてくれました。
相続放棄については、原則的には前述したような手続きを行う期間が定められていますが、その期間が経過すれば、一切の例外を許さないものではありません。そのため「親が亡くなったことを知ってから3か月以上経過している」としても、相続放棄ができないと思いこまないで、どのような事情で今になって相続放棄をしたいと考えるようになったのか、親にそのような借金があることは全く分からなかったのか、などの事情を確認する必要があると思います。そのような事情によっては、期間が経過した後であっても、裁判所によって相続放棄が認められる場合があります。相続放棄ができるか否か、悩まれている方は、一度弁護士に御相談されることをお勧めします。